弁護士法人名南総合法律事務所 札幌事務所
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【相談】
不動産の時効取得は、どのような場合に認められるのですか?
自分の土地の一部を第三者が長年使用している場合、どうすれば良いですか?
【回答】
不動産の時効取得は、他人の不動産を一定期間、継続して占有することにより、その所有権を取得する制度です。これは、長期間継続した事実状態を法的に保護するという考え方に基づいています。
【不動産の時効取得が認められる場合(要件)】
不動産の時効取得が認められるためには、民法で定められた以下の要件を満たす必要があります。
(1)占有(せんゆう)
その不動産を事実上、自己の物として支配している状態であること。
単なる物理的な支配だけでなく、所有者と同じように利用・管理していると客観的に認められる状態が必要です。土地の一部を使用している場合も、その使用している範囲を占有していると認められる可能性があります。
(2)所有の意思をもって(自主占有)
まるで自分が所有者であるかのように、所有者として占有している意思があること(自主占有)。
地主から借りている場合や、一時的に使用させてもらっている場合(賃貸借や使用貸借に基づく占有)は、他人の所有権を認めた上での占有(他主占有)であり、時効取得は認められません。
(3)平穏に(へいおん)
暴行や脅迫など、他人の占有を妨害したり強制したりすることなく占有していること。
(4)公然と(こうぜん)
隠すことなく、誰が見ても占有していることがわかる状態であること。秘密裏の占有ではないこと。
(5)一定期間の継続
上記の要件を満たした占有を、一定期間継続すること。期間は以下のいずれかです。
i. 10年間: 占有を開始した時点(時効の起算点)で、占有者が善意(自分が所有者であると信じていること)であり、かつ無過失(信じていることに過失がないこと)である場合。
ii. 20年間: 占有を開始した時点で、占有者が悪意(他人の物であると知っていること)であるか、または善意であっても過失がある場合。
これらの要件を満たし、時効期間が満了すると、占有者は時効取得を援用(えんよう)(時効によって権利を取得することを主張する意思表示)することにより、所有権を取得できます。
【自分の土地の一部を第三者が長年使用している場合】
ご自身の土地の一部を第三者が長年使用している状況は、時効取得が成立するリスクがあるため、放置することは非常に危険です。以下の対応を検討する必要があります。
(1)状況の正確な把握
・使用されている範囲の特定
境界を確認し、第三者が具体的にどの範囲を使用しているのかを正確に把握します。必要であれば土地家屋調査士に依頼して測量を行うことも検討します。
・使用期間と状況の調査
いつから、どのような経緯で(無断か、黙認か、何らかの合意があったかなど)使用しているのかを調査します。これが時効の起算点や善意・悪意、過失の判断に関わります。
(2)時効の「更新」手続き(旧法では「中断」)
時効期間が経過する前に、時効の完成を阻止するための手続きを行います。これを「時効の更新」といいます(2020年4月1日施行の改正民法で「更新」に名称変更。旧法では「中断」と呼ばれていました)。
・最も有効な方法は「裁判上の請求」です。
例:土地の明け渡しや、使用している部分がご自身の所有であることを確認する訴訟などを提起します。訴えを提起し裁判所が認めれば、時効は更新され、それまでの期間はリセットされます。
・「請求」による方法
内容証明郵便などで、第三者に対し使用の中止や土地の返還を正式に請求します。これは裁判上の請求と異なり、請求後6ヶ月以内に裁判上の請求などの手続きを行わないと、時効の更新の効力が生じない一時的な効果となりますが、相手に所有者の意思を示す重要な行為です。
・「承認」
第三者が、その土地がご自身の所有であることを認める行為(例えば、使用料を支払う、使用の許可を求めるなど)があった場合も時効は更新されます。ただし、相手が応じる可能性は低いでしょう。
(3)時効期間が経過してしまっている可能性がある場合
もし、すでに時効期間(10年または20年)が経過してしまっている可能性がある場合でも、直ちに相手の時効取得が確定するわけではありません。時効取得を完成させるためには、占有者が時効を援用する必要があります。
(4)専門家への相談
不動産を長期間放置しておくと、善意または悪意の第三者によって時効取得されてしまうリスクが伴います。ご自身の財産を守るためにも、不審な占有に気づいた際は、速やかに状況を確認し、専門家に相談することが最も重要です。